ジョルジュ・ランジュラン『蠅』

蝿(はえ) (異色作家短篇集)

蝿(はえ) (異色作家短篇集)

 2006年1月購入。2年の放置。SFホラーの表題作は映像化作品が非常に有名。ある男の悪だくみが一転して勧善懲悪ものへと変化する「奇跡」、構成の妙が光る妻殺しの男の告白「忘却への墜落」、テレビの向こうに映った女性に恋をする話「彼方のどこにもいない女」、動物を操ることのできる男が見舞われた悲劇「御しがたい虎」、漫画『寄生獣』を想起させる自分のいうことの気かない右手の話「他人の手」、子どもの誘拐事件と犬の活躍「安楽椅子探偵」、妻殺しの男の前に現れるジプシーが存在感を示す「悪魔巡り」、最後のフライトを迎えたパイロットに訪れた奇跡「最終飛行」、チェスをうつロボットに中の人がいるのではと疑う話「考えるロボット」の10編を収録。
 各編いずれも非常に短く、ゆえにひねりのきいたネタであってもシンプルな仕上がりになっている。悪くいえば単調で、読み応えという点で評価すると分が悪い。しかし、そのシンプルさ、クラシックな味わいが売りともいえる訳文もそれにふさわしい落ち着いたものになっているので全体的な印象は上々の作品集といえる。一気読みよりも例えば寝る前に各編一日一編読むような読み方を推奨したい。