柄刀一『密室キングダム』

密室キングダム

密室キングダム

 2007年7月購入。5ヶ月の放置。伝説的な奇術師が公演中に奇怪な死を遂げる。そこから端を発した連続殺人事件の真相に南美希風が挑む。タイトルどおり、密室尽くし。ハードカバーにして900ページ超というボリュームを誇る本書だが、冒頭から起こる密室殺人及びそれに対する推理の披露、そして更なる事件と推理、トリックの解明という構成となっており、展開的にだれることはない。しかも、密室トリックは事件後すぐに解き明かされるのだが、にもかかわらず犯人がまったく特定できないという流れが秀逸で、読者はフーダニットを中心としたミステリ的興味を損なわず、ハウダニットレベルでは早い段階で手を明かされるので小カタルシスを得ることができる。こうして一歩一歩階段を上るようにストーリーは止まることなく着実に進んでいくので、この手の本格ミステリではありがちな真相解明の出し惜しみ感とは無縁の作品となっている。惜しむらくはこの作者の文体が決して読みやすとはいえないことだ。ある程度のリーダビリティー*1が備わっていれば、と思わずにいられない。

*1:この場合「読みやすさ」程度の意