大倉崇裕『オチケン!』

オチケン! (ミステリーYA!)

オチケン! (ミステリーYA!)

 2007年10月購入。2ヶ月の放置。名前が災いしてか越智健一は大学入学早々、無理矢理落語研究会に入らされた。二人の先輩と落研の部室を狙うサークル団体に振り回されつつも徐々に落語の世界になじんでいく健一だが、何度か奇妙な事件に見舞われるのだった。部室で落語「寿限無」を唱える幽霊のものらしき声を聞いた話「幽霊寿限無」、馬術部員の喫煙事件の真相を探ることを命じられたのだが、そこに潜むある陰謀の存在を嗅ぎ取る話「馬術部の醜聞」の2作を収録。
 基本的には落語素人の主人公がオチケンに入会することによって落語の楽しさ、奥深さを知る、という一種のビルドゥングス・ロマンとなっており、そこに事件を絡めてミステリ仕立てに仕上げている。謎解きには作中に登場する落語に関する何らかの要素がヒントになっており、落語とミステリは有機的に結びついている。ただし、落語に関するほのめかしから事件の真相に達するには、素人の健一ではあまりに察しがよすぎるように思う。落語に詳しくない読者にとっては、落語素人の主人公を視点人物に据えることによって馴染みのない世界に対する抵抗感を薄くする効果を挙げているのに、肝心の主人公が落語に対する理解が早過ぎるのだ。巻末に落語ガイドめいたエッセイを収録する力の入れようで、その意気は感ずるだけに残念だ。なお、周辺人物に関する描写を見る限り、その人となりや背景は奥が深そうで、続編でこれらが掘り下げられていくようであれば非常に楽しみである。