桜庭一樹『私の男』
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本
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とはいえ、従来の桜庭らしさを十分に感じさせてくれる。少女から大人へと変貌していく主人公の描写はもちろん、なによりも構成そのものが、だ。作者が好んで用いる手法に、「冒頭で結末を大胆に予見させる」というものがある。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や『少女には向かない職業』における結末部分を新聞記事で示す方法や、『赤朽葉〜』の万葉による未来視を用いた一部分の未来映像などだ。本書の場合はまず、1章で結婚直前の大人の主人公を描き、以降、章を経るに従い過去の出来事を語るという構成になっており、本来の時系列では結末となる箇所を冒頭に提示している。これは作者の好んで用いる手法であるということと同時に、主人公と父親がただならぬ関係を持つに至った経緯、その核心に迫る上では非常に有効な手段でもある。
また作中では随所に雨のシーンが印象的に用いられているが、これらはすべて最終章における主人公と父の初対面シーンに収束する。そこでははじめて会った父・淳悟から雨のにおいがすることが繰り返し述べられており、雨=父の象徴であることが判明するのだ。こういった技巧的上手さも見逃せない。