柳広司『聖フランシスコ・ザビエルの首』

ザビエルの首 (講談社ノベルス)

ザビエルの首 (講談社ノベルス)

 2004年10月購入。3年1ヶ月の放置。フリーライターの片瀬修平は鹿児島で発見されたという「ザビエルの首」を取材に行くことに。ザビエルの遺骸はインドのゴア大聖堂に埋葬されているゆえ、明らかに偽者であろうその首を見たとたん、修平の意識は遠のいて行く。気がつくと、彼はザビエルの生きた時代の別の人間に憑依しており、そこで起きた怪事件の探偵役を強いられるのだった。
 以上のコンセプトで書かれた連作短編で、設定上、幻想ミステリの体裁をとることとなる。彼の意識が訪れた場所はザビエルのすぐ間近であるのだが、訪れるごとにザビエルの年齢は若返っていく。最終的にはこのザビエルの若き日のトラウマに迫ると同時に修平自身のそれにも触れることになる。遠い過去のザビエルと現在の自分をリンクする形で進む構造自体は端整で、かつ史実に関する解説も簡にして要を得ており物語そのものの興を殺ぐこともない。そこで巻き起こる謎自体もややあっさりめであるとはいえ、悪くない。ただし、本来の構成上、あくまで幻想ミステリという土台で展開されていくため、最終的に「ザビエルの首」がなんだったのか、あるいは修平を見舞った現象はなんだったのか、という点においては本格ミステリ的な着地点は得られない。もちろんそのこと自体は欠点とはなりえないのだが、期待のしどころを間違うと肩透かしな印象になるので注意されたし。