樋口有介『魔女』

魔女 (文春文庫)

魔女 (文春文庫)

 樋口作品には定型がある。主人公あるいはその周辺人物の昔(学生時代であることが多い)の女性(元カノとか初恋の人だったりする)が死んでしまう。主人公はその女性の死に疑問を抱き独自に調査に乗り出す。その捜査の過程で、被害者及びその周辺の人間関係が暴かれていき、結果的に主人公は知らなくてもいいことを知ってしまい、苦い思いをする――本書の展開もその定型に当てはまる。そして『魔女』というタイトルからも想像可能であるように、捜査過程で暴かれる女性の魔女性が問題視されていき、この魔女性が主人公に苦い思いを抱かせることになる。このタイトルは樋口作品の読みどころを示す上では非常にダイレクトなものであり、かつ、樋口ファンの望む展開を見せてくれる作品でもある。従来の樋口作品が肌の合う読者にとっては諸手を挙げて歓迎したい作品だ。