桜庭一樹『桜庭一樹日記 少年になり、本を買うのだ。』

 推協賞受賞、直木賞候補と話題の作家の読書日記。ラノベ出身で、そのラノベ周辺のジャンルを好んで読む読者から支持を受ける作家であるにもかかわらず、本書で取り上げる作品にラノベはまったく登場しない。そして新刊書もほとんど登場しない。あくまで作者が興味を持って読んだ本を中心に取り上げている。
 

 帰宅して、なにを読もうかなぁと積み本を眺めていたら、なにか急に、怖くなる。東京に戻ってきたので新刊がいくらでも手に入るのだが、いや、自分の本も出たときは新刊なのだが、新たに出る注目の本ばかり追いかけると、まるで流行りのJ−POPを消費する若者のような心持ちで読んでしまう気がして、手が止まる。
 こういうことを繰り返したら、作家も読者も聞き分けがよく似通った、のっぺりした顔になってしまうんじゃないか。みんなで、笑顔でうなずきあいながら、ゆっくりと滅びてしまうんじゃないか。駄目だッ。散らばれッ! もっと孤独になれッ! 頑固で狭心で偏屈な横顔を保て! それこそが本を読む人の顔面というものではないか?

 2006年11月の日記で桜庭はこう記す。膨大な本が紹介されていてそれはそれで興味深いが、個人的にはこの文章を読めただけで満足だ。読書ブログを巡回していくと、「聞き分けがよく似通った、のっぺりした顔」のなんと多いことか! 面白い本は古今東西問わずたくさんあると言うのに、なぜ同じ川の水を飲もうとするのか! 頑固で狭心で偏屈な本を読む人の顔面――そのような本読みとしてのイケメンになりたいものだ。