林泰広『見えない精霊』

The unseen見えない精霊 (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

The unseen見えない精霊 (カッパ・ノベルス―カッパ・ワン)

 2002年4月購入。5年4ヶ月の放置。北インドのジャングルで出会った謎の老婆は「僕」の探す人物「ウィザード」について語りだす。それも、「ウィザード」自身の声で。写真撮影を禁じられたシャーマンの暮らす村で禁忌を犯した「ウィザード」は罰として精霊に殺されることになる。しかし精霊の存在を信じない「ウィザード」は村人に対して挑戦的に言い放つ。「俺を殺すのはあんたたち村人ではなく精霊なんだろう?」村人及びシャーマンが、自分を殺すのに際し、何らかのトリックを用いて精霊の仕業に見せかけようとしていると考えた「ウィザード」は、トリックの介入のできない状況での勝負を持ちかけるのだが、明らかに精霊の仕業としか思えない殺人事件が起きるのだった……

 巻末インタビューでマジックが好きだと語る作者であるが、本書はなるほどマジック的だと思わせる仕上がりとなっている。写真家「ウィザード」はトリックが用いられている瞬間を写真に収めようとするのに対し、そのような観客を欺こうとするシャーマン=手品師というのが基本的な構図であるし、そもそもメインで用いられているトリックが観客の視線をコントロールすることによって成り立っている。そのトリック自体は過分に綱渡り的でありはたして実際的な成功の可否は微妙な気はするが、これを成功させる者こそ大シャーマンであり一流マジシャンであるところの大魔術師なのだろう。舞台背景、テーマ、人物設定等が巧くはまっている作品だ。

 なお、作者は現在精力的に活動している石持浅海東川篤哉と同じカッパ・ワン一期生であるが、本書発表後は沈黙したままだ。更なる新作を期待する。