アンソロジー『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所』

小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所

小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所

 2007年5月購入。3ヶ月の放置。週刊少年ジャンプの長寿連載「こち亀」の30周年を記念して編まれたアンソロジー。執筆者は大沢在昌石田衣良今野敏、柴田よしき、京極夏彦逢坂剛東野圭吾という豪華メンバーで、両津勘吉新宿鮫やIWGPのマコトと共演している。熱心な原作読者からみると、両津や大原部長、あるいは中川、麗子といったレギュラーキャラクターの造形に違和感を抱く作品もあるものの、東野圭吾「目指せ乱歩賞!」のように原作に忠実な佳作もあるし、京極夏彦ぬらりひょんの褌」のように原作ネタを随所にちりばめたマニアックな作品もあり、総じて見た場合なかなか楽しめる作品集だ。
 そもそも「こち亀」が30年という長期連載に耐えられたのは作中世界、ならびに主人公の両津勘吉という人物が時の流れによって変わり行く世態風俗を柔軟に取り込み、その時代に即したネタを作ってきたからである。そしてその柔軟さ、あるいは何でも取り込む吸引力は小説世界に移行しても健在で、ミステリ作家の作り上げた登場人物まで取り込んでしまう。こういった試みが可能なのはこの原作あってこそだろう。
 なお、京極作品にはあの中野の古書肆が登場するのでこちらのファンも要チェックである。