佐藤賢一『カルチェ・ラタン』

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

カルチェ・ラタン (集英社文庫)

 2003年8月購入。4年の放置。宗教改革の嵐が迫る16世紀のパリを舞台にした歴史小説。主人公の夜警隊長・ドニ・クルパンはヘタレ童貞野郎として描かれている。一方、もう一人の主人公とも言うべきクルパンの元家庭教師・ミシェルは頭脳明晰モテモテイケメンであり、そのあからさまなまでの対比の妙が作中に終始存在している。序盤はミシェルを探偵役、クルパンをワトソン役としたホームズものの探偵譚のごとく進んでいくのだが、二人が事件を解決していくにしたがって大きな陰謀が進展しつつあることが明らかになっていく。この事件、及び宗教改革がらみの男女の性意識といったものが、クルパンをヘタレ童貞と性格付けたことによって見事に活きてくる。そしてクルパンの性格が物語をいい具合に活気づけたのとは逆に、この事件によってクルパン自身が成長を遂げており成長小説として読み解くことも可能だ。主人公の性格付けと作品の時代背景が両輪のごとく機能し非常に魅力的な作品に仕上がっている。