宇月原晴明『廃帝綺譚』

廃帝綺譚

廃帝綺譚

 2007年5月購入。2ヶ月の放置。傑作『安徳天皇漂海記』の世界観をそのまま用いて後の時代の帝王たちを描く。前作が重厚な長編であったのに対し、本書は濃密な短編集となっている。タイトルにある通り「廃帝」に主眼をあてているのだが、時代も場所もさまざま。鳥を愛玩したエピソードで知られる元朝の順帝を描いた「北朝茫茫」、鄭和を南海に派遣したことで知られる明の永楽帝とその前帝・健文帝の因縁を描いた「南海彷徨」、李自成の軍勢が迫り今まさに滅びんとする明末を生きた崇禎帝を描いた「禁城落陽」、承久の乱に敗れ隠岐に流された後鳥羽院を描いた「大海絶歌」の4編、いずれも絶品だ。特に王朝に最盛期をもたらした永楽帝の視点で甥でありながらも「廃帝」に追いやった健文帝との悲劇的な争いを、時代の英雄・鄭和渡航によって本書の設定と絡めた「南海彷徨」は秀逸。読むべし。