森博嗣『ηなのに夢のよう』

ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)

ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)

 2007年1月購入。半年の放置。デビュー作『すべてがFになる』以降、西之園萌絵の周辺ではあまたの事件が起こり、そしてそれに巻き込まれることによって彼女はたくさんの「死」と遭遇した。彼女にとって人の「死」とは事件の向こう側に存在するものであった。「死」はあくまで他人の「死」であって彼女の個人的な領域とは外に存在していた。一方で彼女自身は幼いころに父と死別していた。父の死は彼女の内なる領域で起こったことである。彼女にとって両者は明らかに別物であり、受け止め方には明確な線引きがあった。身近なる者の「死」という事実を受け止めるには彼女自身が未成熟であったがゆえだ。本書では西之園萌絵のそういった感情のありかたがはっきりと変遷する、そして彼女の内面が成長する。ラストシーンで彼女は父以来となる身近なものの「死」に遭遇する。そして後に彼女自身の旅立ちがやってくることが予見されている。かように本書は成長小説的側面が濃厚な一冊だ。