谷原秋桜子『砂の城の殺人』

砂の城の殺人 創元推理文庫

砂の城の殺人 創元推理文庫

 2007年3月購入。3ヶ月の放置。行方不明の父を探す資金を稼ぐため日々アルバイトに励む美波は、廃墟専門のカメラマンの助手をすることになった。現場は雇い主のカメラマン・阿賀野瑞姫が昔暮らしていた屋敷で、しかもそこでミイラ化された死体が発見される。瑞姫いわく、この死体は自分の母親だ、と。おりしも降りしきる雨、橋の崩落によって閉ざされた廃墟で更なる殺人事件が起きるのだった……
 元来が登場人物の色付けに依存しながらも、本格ミステリというジャンルを真正面から見据えたシリーズであるだけに今作も本格の魅力をみせてくれる。クローズドサークルで起きる殺人事件を扱っているのだが、探偵役に立候補した人物たちが自説を繰り広げ、最終的に真の探偵役が――と言う推理合戦の構図がキャラの魅力もあいまって楽しい。
 そもそも本シリーズは修矢と美波のラブコメとしての要素も強いわけだが、普段は仲が悪く反発してばかりという設定があるために、修矢は件に巻き込まれる美波とは別行動をとることになる。ミステリ的展開としては、探偵役としての修矢を事件の表舞台に立たせるのを遅らせることができ、事件のクライマックスで大トリとして登場することになり、演出上非常に便利である。ラブコメものと名探偵ものはかくも相性がよいものか、と思った次第だ。