司馬遼太郎『司馬遼太郎対話選集1 この国のはじまりについて』

 2006年4月購入。1年2ヶ月の放置。あくまで小説というジャンル内に限っての話だが、私は司馬の文章があまり好きではない。歴史上の人物を描写するに当たって観察者としての立場を徹底的に貫き、与えられた資料を条件にその人物を再構築していくのだが、その作者と作中人物、あるいは発掘者と資料中に埋もれた人物という距離感がそのまま読者と作者という距離感につながってしまい、結果として小説としてのその作品・人物にのめりこむことができないからだ。もちろん、その人物造詣や人物評・歴史上の位置づけということに関しては申し分なく、その表現力は舌を巻くほどうまい。したがって、小説という狭いくくりを取っ払って純粋に司馬の文章ということであれば、大好きだ、と答える。本書はその司馬の対談集で小説ではないので、そういったジャンルによる個人的嗜好からいえばアンビバレンツな感情に縛られることなく彼の文章を楽しむことができた。むろん、その文章も後に校正されているとはいえ基本的にはしゃべり言葉だ。だが巧みな比喩を用いた時代評・人物評は見事で読んでいるだけで楽しくなる文章だ。
 内容的にはタイトルにある通り、この国のはじまりについて西の貴族文化圏に対してのちに起こる東の武士の世界を取り上げたものが多い。