パトリック・マグラア『失われた探険家』

失われた探険家 (奇想コレクション)

失われた探険家 (奇想コレクション)

 2007年5月購入。1ヶ月弱の放置。全部で19作という収録作からもわかるように、1作1作は非常に短い。にもかかわらず、各作品に読みどころがきっちり用意されており、濃密な短編集となっている。大英帝国統治時代のインドを舞台にして夫婦愛を前面に押し出しつつも微妙な打っちゃり描写を潜ませた怪異譚「黒い手の呪い」、連続殺人鬼と女性記者のスリリングな対面「アーノルド・クロンベックの話」、精神科医の診断に疑問を抱く語り手による壮大な罠を仕掛けた手記「串の一突き」、タイトルから察せられる通り、発想がアホアホ、でも奇妙な吸引力がある「オナニストの手」、長靴による一人称で核戦争後のある一家の悲劇を描く「長靴の物語」、やはり戦争後の世界を蠅の視点で描く「蠱或の聖餐」、ある男を吸血鬼と思い込み、娘を守ろうとする語り手「吸血鬼クリーヴ、あるいはゴシック風味の田園曲」、いけ好かない家族たちと、家に漂う腐臭「悪臭」等々、いずれも奇想に満ちた佳品で至福の読書体験が得られること間違いなし。良作ぞろいの奇想コレクションでも屈指の出来だ。