京極夏彦『前巷説百物語』

前巷説百物語 (怪BOOKS)

前巷説百物語 (怪BOOKS)

 2007年4月購入。1ヶ月の放置。江戸時代を舞台にした「巷説百物語」シリーズの前夜譚。又市がいかにしてこの世界に関わるようになったかを描いており、作中では彼の若さ・あまさ・青臭さがあらわになっている。損を必要以上に取り返さないと心がけながら、やりすぎて恨みを買ったり、誰も死んでほしくないと願いながらも、結果として人死にを出してしまうことを悔やんだりする又市の姿はシリーズを通して彼の姿を見てきた読者には、こんな時代もあったのかという感慨を覚えずにはいられない。
 また、仕掛けを施すための準備を「図面を引く」と、まるで職人が細工物を作り出す際の手順を想起するような表現を使っているのが印象的だ。これはそのまま作者京極の小説作法を思わせる。綿密な図面を引き、一分の狂いも許さず、几帳面に作品を書き上げていく――完成度の高い京極作品は総じてそういった職人気質を感じさせる。