カーター・ディクスン『ユダの窓』

ユダの窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-5)

ユダの窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-5)

 密室トリックの一典型として著名な1冊。それゆえネタバレ率も高く、その被害にあった者にとってはハウダニットとしての楽しみが著しく殺がれてしまう。そしてトリック至上主義の立場に立ってしまうと今日ではいわゆる「ユダの窓」型トリックの嚆矢としての価値を声高に主張することになり、本書のけれんみたっぷりのストーリー展開に目を向けることがなくなってしまう。だが、そういった偏った視点からひとたび離れて見ると、法廷での手に汗握る丁々発止のやり取りの面白みが見えてくる。被告側にたって弁護をするヘンリー・メリヴェール卿の思わせぶりな発言、巧みな弁論で有利に立ったはずなのに思わぬ形で形勢不利に追い込まれる法廷闘争……「ユダの窓」のトリックはそういった流れの中で最終的に弁論を勝利に持ち込むために明かされる。この一連の物語運びが実にうまい。ストーリーテラーとしての作者の魅力が存分に味わえる1冊だ。