宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』上下

ブレイブ・ストーリー(上)

ブレイブ・ストーリー(上)

ブレイブ・ストーリー(下)

ブレイブ・ストーリー(下)

 2003年3月購入。4年2ヶ月の放置。小学五年生のワタルの父親が突然家を出て行く。どうやら外に愛人を作り、自分と母親を捨ててその愛人と暮らすことにしたらしい。その日からワタルにとって現実はひどくつらいものとなってしまった。ところが、不思議な転校生・ミツルと関わるようになり、こことは別の世界の存在=幻界を知る。そしてミツルは言うのだった。「幻界へ行けば運命を変える」と。
 異世界で冒険を繰り広げることによって主人公の少年が成長を遂げるという、王道的なビルドゥングス・ロマン。その成長の過程は宮部みゆきの現実世界を舞台にした小説でも散見される、主人公の家庭の崩壊から個人としての再生・成長を遂げるパターンをとっている。本書で重要なのが、現実世界での「家庭の崩壊」がしっかりと書き込まれていることだ。形式上は異世界冒険譚に違いないのだが、問題視されているのは現実のほうであり、幻界での冒険はあくまで「個人の再生・成長」のために用意された舞台である点だ。正直、幻界のパートはいわゆるコンピューターゲームのRPG世界そのままで、ファンタジーとしての世界構築の妙などまったくないし、展開はご都合主義に過ぎる。しかし、現実がしっかりと描かれており問題点もきっちり提起してあるがゆえにその世界も輝くのだ。読みどころに注意すべし。