鮎川哲也『消えた奇術師』

消えた奇術師  星影龍三シリーズ (光文社文庫)

消えた奇術師 星影龍三シリーズ (光文社文庫)

 2007年4月購入。1ヶ月の放置。鬼貫警部と並んで鮎川ミステリを代表する探偵役・星影龍三を主人公とする短編集。鬼貫ものがアリバイ崩しを主眼とした捜査小説の色合いが濃厚なのに対し、本書では主に密室物を扱っているのだが、このアリバイものと密室ものの違いが、両キャラクターの違いという形ではっきり現れている。丹念な捜査で情報を集め地道な活動・推理を必要とするアリバイものではやはりキャラクター的に癖のなく地味な鬼貫、事件現場での推理が主眼でどちらかというと天才的な閃きが重視される密室ものでは星影(そして天才型ゆえに個性も強い)、というように。また、それだけでなく捜査にページを費やす必要がある鬼貫作品に長編が多いのに対し、閃きで一気にカタをつける星影作品の本書が短編で成立している点も両者の性質を鮮明に表している。なお、赤・白・青という3色の密室を扱った作品は星影もの=密室ものの白眉であり、発表時期・作者の知名度を考慮するといまさらこんなマイナーブログで強調する必要もないとは思うが、要必読であることを付記しておく。