ダイ・シージエ『バルザックと小さな中国のお針子』

バルザックと小さな中国のお針子 (ハヤカワepi文庫)

バルザックと小さな中国のお針子 (ハヤカワepi文庫)

 2007年3月購入。2ヶ月の放置。文化大革命真っ只中の中国、医者の息子ということで反革命分子にされ、山奥で再教育を受けることになった二人の少年と、そこで出会った一人の少女の物語。歴史的観点で見ると、冬の時代と認識されがちな文革期を舞台としながらも、少年少女の恋を描いているだけあってみずみずしい青春ものの佳品として仕上がっている。その恋の架け橋として利用されるアイテムが禁書とされているバルザックの小説というのも詩的情緒に溢れておい。そしてなによりも、優れた小説作品がつらい現実社会を生きていく若者たちに力を与えていることがすばらしい。この美しき青春小説は物語賛歌でもあるのだ。残念ながら、たくさんの娯楽の溢れる現代では小説にそれほどの影響力はなくなっている。しかし面白い作品の価値は決して変わらないし、読み手の心を揺さぶる力を今なお秘めている。さあ、もっともっと読もうではないか。