ディクスン・カー『帽子収集狂事件』

帽子収集狂事件 (創元推理文庫 118-4)

帽子収集狂事件 (創元推理文庫 118-4)

 帽子盗難事件が相次ぐ霧深いロンドン市内で起きた殺人事件。ロンドン塔の逆賊門に晒された死体の頭には、その帽子収集狂の仕業と思われる盗難の被害にあったゴルフ服とは不似合いなシルクハットが載せられていた。

 霧の立ち込めるロンドンで起きる殺人事件。そこに絡んでくるのは怪しげな帽子収集狂とエドガー・アラン・ポーの未発表原稿。奇怪な館や密室は登場しないものの、いわゆるゴシック的な本格ミステリ要素は少なくなく、カーの筆によって描き出された怪しい空気は今なお魅力的で、本格読みとしてはある種の憧憬の思いを抱かずにはいられない。現代的見地で見てトリックがいまひとつだとしても、だからといって評価を下げる必要はないはずだ。