森博嗣『εに誓って』

εに誓って (講談社ノベルス)

εに誓って (講談社ノベルス)

 2006年5月購入。11ヶ月の放置。東京発中部国際空港行きのバスに乗った山吹早月と加部谷恵美はハイジャック事件に巻き込まれる。その乗客名簿には「εに誓って」という謎の団体名が記されていた……

 以下はややネタばれ気味に。
 作中では「外部とのつながりの有無」が一貫として示されている。通常のバスジャック事件と異なり、携帯電話による外部との連絡を禁止しないことはもちろん、人間同士のつながりという点は特に重要だ。「εに誓って」という団体がもくろんだのは集団自殺だ。人とのつながりをわずらわしく思い、ある人物はぬいぐるみとコミュニケーションをとり、ある人物は音楽を聴くことによって外部を遮断する。そうやって外部を絶つことを突き詰めた結果として導き出されたのが、自殺という究極の遮断だ。そのようななかで起きたバスジャック事件を解決したのは、携帯電話によって外部とつながることによって事件の真相を推理した犀川や萌絵で、結果として外部とつながることこそが救いであることが示された。ある人物は集団自殺するための団体である「εに誓って」という団体内で知り合った人間と関わり興味や執着を持ったからこそ助かったりもしている。すこぶる健全なテーマであり、森博嗣このような見解を示すような作品を書くというのは少々意外な気がした。