蒼井上鷹『出られない五人』

 2006年9月購入。半年の放置。アル中作家・アール柱野の急逝を偲び、オフ会が開催されることとなった。場所はアール柱野になじみの深いバー<さばずば>。そんな中で行われたオフ会の現場で身元不明の死体が発見される。ところが集まったメンバー5人は各々いわくありげな事情を抱えており、通報したり現場を抜け出したりできずにいた。

 登場人物の思惑に基づいて構成された密室空間という趣向は石持浅海作品を思わせるものがあるが、この作者の描き出す世界は人を食っているというか、異色な雰囲気がある。眼目がクローズドサークルによって絞られた人物の中でのフーダニットという方向ではなく、各人物の思惑によって転がっていく奇妙な展開に向けられているせいかもしれない。章によって異なる視点人物、そしてそれによって明らかになるそれぞれの事情が物語のキーポイントとなっており、そこから展開していく物語はいわゆる定型とは若干ずれている感があり、そしてそのずれた感覚こそが作者の個性として活きている。さくさく読める文体も物語のテンポをそがずに吉となっている。