貫井徳郎『悪党たちは千里を走る』

悪党たちは千里を走る

悪党たちは千里を走る

 2005年9月購入。2年半の放置。まじめに生きていても報われない高杉篤郎は会社員勤めをやめ、詐欺師になる。弟分の園部とちんけな詐欺行為を繰り返す彼は、ある時同業者の美女・菜摘子と現場でかち合い、成り行きで金持ちの子どもの誘拐をたくらむことになるのだが……

 本書、そして本書よりさらに半年前の作品『さよならの代わりに』の刊行を見ると、貫井徳郎という作家は従来の鬱系の路線にとどまらず、より一般受けのしやすい方向へと作風を広げんとしているのではと思わせるものがある。その『さよならの代わりに』が青春小説風でセンチメンタルな色合いの強い作品であるのに対して、本書は非常にコミカルな悪漢小説といったところ。いずれも作者の一番の売りである人間の黒さを描写することは控えられている。もっとも本書に関しては、その意欲は買うもののぎこちなさが目立つ気がする。特に弟分のチープさを演出する「アニキ、〜ス」というしゃべり口調には脱力。きわめてマイナーなたとえで恐縮だが、数年前の某打ち切り漫画の「風天組は最高ス!」を連想してしまった。