司馬遼太郎『新装版 北斗の人』上下

新装版 北斗の人(上) (講談社文庫)

新装版 北斗の人(上) (講談社文庫)

新装版 北斗の人(下) (講談社文庫)

新装版 北斗の人(下) (講談社文庫)

 2006年2月購入。1年1ヶ月の放置。北辰一刀流創始者千葉周作の生き様を描いた歴史長編。剣豪を主人公とした歴史ものといえば最近では宮本武蔵がクローズアップされがちだが、その武蔵と周作の違いは乱世直後に生きた殺しの技術としての剣術を鍛えた者と(後に幕末の動乱を迎えるとはいえ)太平の世の道場剣術としての一流派を洗練させていく者として対比させられる。したがって武蔵のように殺伐としつつもストイックな生涯とは異なるものの、周作自身一剣客として天下に名を成さしめんとする強い意思に満ちた野心家として描かれている。他流試合あり、修行の旅ありと『バガボンド』のように漫画化すればかなり面白いものが出来上がるように思う。また、思想としての剣から合理的な技術としての剣へと剣術のあり方が変遷していくさまが克明に描かれているあたり、いかにも司馬遼太郎的な視点だ。司馬作品の中では比較的マイナーな部類かもしれないが、一級品の歴史人物ものであることは間違いない。