樋口有介『初恋よ、さよならのキスをしよう』

 2006年9月購入。半年の放置。スキー場で偶然にも20年ぶりに再会した初恋の女性が殺された。被害者・卯月実可子の姪から事件調査を依頼された柚木草平は実可子と仲のよかった同級生を訪ねていくのだが……

 前作同様、中年を主人公にしながら青春小説風味をかもし出す物語展開は非常にほろ苦い。ことに今作では事件関係者が主人公の高校時代の同級生ということもあって、シリーズものとして捉えた場合そういった味わいはいっそう深いものに感じられる。

 ところで本シリーズにおける青春小説風味、たとえば米澤穂信の一連の作品や伊坂幸太郎の『砂漠』など当今流行の同ジャンルものと大きく異なる点がある。彼らの作品が若い主人公の今現在送っている青春時代を扱っているのに対し、柚木シリーズでは主人公はすでに中年であり、それにもかかわらず事件を介して生じる彼の感情が青春小説的だ、という点だ。前者がリアルタイムの感情が問題であるのに対し、後者は多分に追憶の念が強く哀悼的だといえる。ひるがえって読者の視点でいうと、主人公の年代に近い方ほど(肯定否定は別として)身近な感情として捕らえられるということになる。おそらく柚木草平に年齢が近ければ近いほど本シリーズの青春小説風味は楽しめるはず。