北村薫『語り女たち』

語り女たち

語り女たち

 2004年4月購入。2年10ヶ月の放置。金持ちの家に生まれ、暇をもてあそぶ男の趣味は一風変わった体験談を人から聞くことであった。そんな彼のもとを訪れる女性たちが語る物語の数々を集めた作品。作風とはまったく関係なく、自作の方向性の振り幅というただ一点のみにおいて、ミステリ界の先輩作家・泡坂妻夫を連想した。メインフィールドを謎解きをメインとした本格ミステリに据えてその一方で紋章上絵師の世界を描いた人情物をものし、コアなミステリ読み以外からも高い評価を受けた泡坂。同様に「円紫師匠とわたし」シリーズや「覆面作家」シリーズで上質な本格ミステリを発表する一方で『水に眠る』や本書のような幻想性・詩美性の高い作品を書き上げている。泡坂が「陰桔梗」で直木賞を受賞したように本書は第136回の直木賞候補になっている。この方向性の類似は作家のあり方としてだけでなく作家評価としてのあり方という面においても非常に興味深い。