泡坂妻夫『揚羽蝶』

揚羽蝶

揚羽蝶

 2006年11月購入。2ヶ月の放置。短編全8編のうち、前半4編が紋章上絵師の世界を、後半は奇術に関わる人々を中心に描いている。いずれも作者が好んで用いてきたテーマで、情緒に満ちた味わい深い作品に仕上がっている。装飾語を派手に用いず、かといって淡白さはまったくない、作者特有の筆運びで築き上げられた作品の数々を見ると、思わずため息がこぼれてしまう。黒一色で描かれた墨絵や、たった17文字で構成される俳句といった日本古来の、そぎ落とすことによって作り上げた美の世界の流れに位置する作品で、泡坂妻夫はそういった日本的美意識を体現できる作家であることを再認識させられた。「亜愛一郎シリーズ」のような技巧を凝らした構成で魅せるミステリ作品だけが泡坂妻夫の魅力ではない。