松尾由美『おせっかい』

おせっかい (新潮文庫)

おせっかい (新潮文庫)

 2006年2月購入。およそ1年の放置。やもめの中年サラリーマン・古内繁は怪我で入院中にある小説を読みはじめた。「おせっかい」というタイトルのその作品に登場する女性刑事が気になって仕方のない繁は、なぜか夢を通じてその小説世界に入り込めるようになってしまった。それどころか、作品の内容にも干渉ができることに気づく……

 SF・ファンタジー的な設定を用いることによって独自のミステリ世界を展開する松尾由美。本書では小説の世界と現実の世界をつなぎ合わせ、サスペンス色の強いストーリーを作り上げた。SFとミステリというジャンルを混交させてはいるのだがそのバランス感覚は絶妙で、あくまでSF的設定はあくまでサスペンス性を高めるための装置にとどまり、声高に主張することはない。個人的にそのバランスは非常に心地のよいものだった。作中の人間関係は擬似家族を思わせるもので、話の転ばし方によってはいくらでもお涙頂戴ものにできそうであるのだが、そういった方向に進まないところも潔さを感じて好印象。