北川歩実『金のゆりかご』
- 作者: 北川歩実
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/11/20
- メディア: 文庫
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森博嗣の登場以降「理系ミステリ」というジャンルが定着した感があるが、そういった昨今の流行に則るのならば本書も「理系ミステリ」と呼んで差し支えないと思う。ただし、この「理系ミステリ」という呼称はジャンルの嚆矢である森の作品から連想されるイメージが非常に強く、そのイメージに従うと北川作品を「理系ミステリ」と呼ぶには相当の違和感が付きまとう。いわゆる森の「理系ミステリ」とは理系のテーマを扱うことそのものよりも理系の分野で生きる登場人物、及びその思考法を描いたものだ。対するに北川作品はそもそもの理系テーマ、科学テーマをミステリの文脈に則って扱うことを主としている。たしかに「理系」ミステリではある北川作品にそういったレッテルが張られないのは以上のような理由に基づくものではないだろうか。
その「理系」ミステリたる本書だが、科学の発達と人間社会における倫理の相克という現代的な重いテーマを根底にすえそこに二転三転のミステリ的どんでん返しを仕掛けてみせるという内容となっており、読み応えは十分。ミステリ、というジャンルの書き手としては比較的マイナーではあるが、もっと評価されてもよい作家だと思う。