北川歩実『金のゆりかご』

金のゆりかご (集英社文庫)

金のゆりかご (集英社文庫)

 2001年11月購入。5年以上の放置。野上雄貴はGC理論と呼ばれる英才教育法によって育てられた。その成果か、一時は天才少年としてもてはやされたものの、やがて限界を露呈し落ちこぼれていく。野上は結局タクシー運転手としての人生を歩むこととなるのだが、ある時彼はGCS幼児教育センターに幹部候補生としてスカウトされる。GCS幼児教育センターとは幼少時代に彼が教育を受けた組織の後身で、そこには以前の彼と同様、あるいはそれ以上の英才教育を受けた「天才少年」たちがいた。なぜ落ちこぼれの自分を迎え入れようとするのか? 迷う野上はやがて教育を受けた子供の中に精神に異常をきたしたものがいるという噂を聞く……

 森博嗣の登場以降「理系ミステリ」というジャンルが定着した感があるが、そういった昨今の流行に則るのならば本書も「理系ミステリ」と呼んで差し支えないと思う。ただし、この「理系ミステリ」という呼称はジャンルの嚆矢である森の作品から連想されるイメージが非常に強く、そのイメージに従うと北川作品を「理系ミステリ」と呼ぶには相当の違和感が付きまとう。いわゆる森の「理系ミステリ」とは理系のテーマを扱うことそのものよりも理系の分野で生きる登場人物、及びその思考法を描いたものだ。対するに北川作品はそもそもの理系テーマ、科学テーマをミステリの文脈に則って扱うことを主としている。たしかに「理系」ミステリではある北川作品にそういったレッテルが張られないのは以上のような理由に基づくものではないだろうか。
 その「理系」ミステリたる本書だが、科学の発達と人間社会における倫理の相克という現代的な重いテーマを根底にすえそこに二転三転のミステリ的どんでん返しを仕掛けてみせるという内容となっており、読み応えは十分。ミステリ、というジャンルの書き手としては比較的マイナーではあるが、もっと評価されてもよい作家だと思う。