森絵都『風に舞いあがるビニールシート』

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート

 6つの短編が収録されているが、いずれも表にある「風に舞いあがるビニールシート」のごとく不安定な状態にある人物を描いている。
 例えば冒頭の「器を探して」では仕事に追われて結婚ができないでいる30代半ばの女性の話。その仕事の関係で美濃焼きの器を求めて急遽窯元を訪れるはめになる。しかもよりにもよってクリスマスイヴに。恋人に会うこともできずにひたすら器を求める主人公はあちこち探し回った挙句にとてつもなくすばらしい器と出会える。そのことによって不安定な状態にあった心は安定を得ることになる。
 次の「犬の散歩」ではこの器の役割を犬が果たし、「守護神」では不思議なレポート代筆屋の女性が、「鐘の音」では仏像と鐘の音、そして時の流れが、「ジェネレーションX」では自分よりはるか年下の若者の態度に、そして「風に舞いあがるビニールシート」では最愛の男性の死の意味がわかったことが――
 と言う具合に不安定→安定という筋書きを追うこととなるので、読後感は非常によろしい。また、こういったある種テンプレ的なストーリー展開が続くと読んでる側としてはだれてくる心配もあるのだが、本書に限ってはそれを感じなかった。作者の筆力がそうさせたのであろう。