古龍『多情剣客無情剣』上下

多情剣客無情剣〈上〉 (海外シリーズ)

多情剣客無情剣〈上〉 (海外シリーズ)

多情剣客無情剣〈下〉 (海外シリーズ)

多情剣客無情剣〈下〉 (海外シリーズ)

 2冊まとめて。2004年2月購入。2年9ヶ月の放置。「小李飛刀」の異名を持つ李尋歓は百発百中の飛刀の名手だ。「鉄甲金剛」こと鉄伝甲とともに江湖をさすらう彼の耳に飛び込んできた不穏な噂――「梅花盗」が活動を再開したらしい。「梅花盗」は神出鬼没の盗賊で、殺しの腕も相当なものだ。李尋歓はこの「梅花盗」がらみの騒動に巻き込まれていくのだが……

 主人公・「小李飛刀」李尋歓、そして彼の友人である阿飛、あるいは「梅花盗」や荊無命や龍小雲といった個性的なキャラクターの数々、そして彼らの繰り広げる必殺技による数多の戦闘シーン。武侠小説の魅力そのものが堪能できる作品だ。そしてその戦闘シーンは一風変わっている。飛刀を放るのが得意な主人公はもちろん、誰よりも早く剣を繰り出してみせる剣士が登場したりと、戦闘では獲物の扱いの巧さではなく獲物を繰り出す速さのみが求められることが多い。チャンバラというより西部劇の早撃ちを見ているかのようだ。このスピード感を追求する姿勢は作品そのものにも求められているかのようで、小説的結構すら置き去りにしてとにかくテンポよく話は進む。

 ストーリー全体で見ると完成度は低く、伏線の処理は甘い。しかし勢いを重視した構成は読み手を決して飽きさせることはないであろう。面白い。