キム・ニューマン『ドラキュラ戦記』

ドラキュラ戦記 (創元推理文庫)

ドラキュラ戦記 (創元推理文庫)

 1998年12月購入。8年近くの放置。ブラム・ストーカー書くところの『吸血鬼ドラキュラ』の話は実はウソで、本当の世界はヴァン・ヘルシングはドラキュラに敗れ、世界はドラキュラに支配されている――という世界観をもとに描かれたドラキュラ譚の第2弾。第1弾『ドラキュラ紀元』の19世紀末から時は流れ、本書では20世紀初頭、それも第1次大戦真っ只中のヨーロッパが舞台となっている。


 怪作だ。なにしろドラキュラが支配するのはドイツ、しかもそのドイツの空軍が率いるのは戦闘機ではなく翼を生やした吸血鬼なのだ。そしてそれに対抗するイギリスの中枢には影の内閣としてあの「ディオゲネス・クラブ」が存在し、そのディオゲネス・クラブの密命によりエドガー・ポーが敵地へ赴いたりするし、さらにいえばそのポーは吸血鬼化していたりする。


 そしてそのポーに代表されるようにこの時代の代表的な人物が実在・架空問わず大量に登場する*1。例えばそれはチョイ役に過ぎなかったりするが、それでも思わずニヤリとせずにいられない。巻末にそういった人物のリストが付いているのだがこれが壮観だ。歴史から小説・映画までジャンルを問わないで登場するキャラクターの数々……この手の知識が多ければ多いほど楽しめるに違いなく、思わず自分の知識の乏しさに地団駄を踏みそうになった。そういえば、本格ミステリ界隈で教養主義を打ち出した作家がいたが、教養主義をぶち上げるのなら本格に限定すると言うような了見の狭いことはせずに、もっと広範なジャンルにも適用してもいいじゃん。そう言いたくなるような、懐の広さを感じる作品だ。

*1:そしてそのほとんどが吸血鬼になっている!