米澤穂信『ボトルネック』

ボトルネック

ボトルネック

 2006年8月購入。2ヶ月の放置。死んだ恋人を弔うために東尋坊を訪れたリョウは、強風の影響と眩暈によって崖から落ちてしまう――少なくとも彼自身はそう思っていたのだが、目覚めたのは東尋坊から離れた別の場所で、しかもまったくの別世界だった。そこでは彼の存在はなく、代わりに彼の「姉」がいた。しかも恋人は生きており、不仲のはずの両親は仲睦まじい様子であるという……
 青春ミステリの書き手として認知され、注目度も高まっている米澤穂信だが、その作者の「青春もの」としては苦いというどころではなく、最も痛々しいものとなっている。自意識過剰の極地だ。
 そしてミステリとしてみると、もはや従来の作品と同列のミステリ作品ではない。しかし、自分の存在する世界と「姉」の存在する世界――すなわち自分の存在しない世界の違いを語る段階では、本格ミステリにおける名探偵の解決編のごとく、すべてを解き明かし説明してしまっている。このあたりの手法はいかにも本格ミステリの書き手の手癖だ。そして本書の場合、一見、その名探偵解決的な語りすぎは明らかにマイナスに見える。しかしそれに気づくのは主人公自身である点が重要だ。二つの世界の違いから自身のレゾンテートルの否定という結論に行き着くのは他ならぬ主人公自身だという残酷さ。読者に対する青春小説の演出としては失敗だが、主人公の苦痛・苦悩を段階的に描く手法としてはそれなりの効果をもたらしているのではないだろうか。