北森鴻『親不孝通りディテクティブ』

親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)

親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)

 2006年8月購入。2ヶ月の放置。福岡の博多を舞台に屋台でバーを営むテッキとその相棒キュータのコンビが主役の短編集。
 本書は北森鴻作品に見られるある特徴を非常に端的に現している作品といえる。それは主人公の探偵役が事件にかかわることによって自身の立ち位置が変化させられてしまう、というものだ。
 通常、いわゆる名探偵の登場するシリーズ作品においてはその探偵は事件に関わるものの、事件そのものに自身の存在は影響されない特権的な立場にいることが多い。その立場から転落することはシリーズ作品の変質――終了を意味することとなる。クイーンの「ドルリイ・レーン」シリーズを思い浮かべるべし。
 そもそも探偵は事件そのものとは距離を置いているものだ。ところが、北森作品においては探偵役が事件の渦に巻き込まれ、翻弄される。冬狐堂シリーズしかり、裏京都シリーズしかり。そして本書の鴨志田鉄樹しかり。冬狐堂シリーズは巻を重ねるにつれ陶子は旗師としての仕事がやりにくい立場に追いやられてしまうし、裏京都シリーズの有馬次郎に対するワトソン役の折原けいなどは事件によって失職することとなる。そして本書の結末を見よ。
 ところが北森作品が通常の立場の変化する探偵ものとは決定的に異なるのは、それでもシリーズとして続いていく点にある。1作で終わりと思われていた本書の続編が出ることが最近発表されたが、北森の作風からは当然の成り行きといえなくもない。

 なお、似たような事件によって変化する探偵役シリーズとして西澤保彦の「タック&タカチ」シリーズがあるがこれはそもそもビルドゥングス・ロマンとしての側面が強く、すなわち登場人物の変化は成長を意味するのであって、北森作品のそれとは意味合いがまったく異なる。