古処誠二『遮断』

遮断

遮断

 2005年12月購入。9ヶ月の放置。太平洋戦争末期の沖縄戦を舞台に、戦地に置き去りにせねばならなかった赤ん坊を探しに戻る青年兵を中心に描いた戦争小説。置き去りにされた赤ん坊を救出しに戻ることは現代的視点から見るとまごう事なき美談である。しかしその背景にあるのは戦場での決断である。「大義」を優先させ、戦略的見地から赤ん坊を捨てた少尉と美談とは関係なく個人的な事情――それも後ろめたさに由来する責任感とか嫌悪感から赤ん坊を救おうとする青年兵の対立が作中で常に付きまとう。この対立を戦争というフィルターをはずして眺めてみると、全体の利益を優先するか個人のエゴを優先させるかというところに行き着き、赤ん坊を救うという「美談」は単純に「美談」として捕らえられなくなる。戦争下における特殊な状況がもたらした構図だとしてすべて「戦争が悪い」と言い切ってしまうのは簡単だが、短絡的にそう結論付けたくない気もする。