貫井徳郎『愚行録』

愚行録

愚行録

 2006年3月購入。半年の放置。東京郊外で起きた一家惨殺事件は、犯人の目星が付かないまま1年が過ぎた。そんな状況であるルポライターがその事件の関係者を取材するのだが、そこに浮かび上がってきたのは嫉妬や羨望、学歴コンプレックスなどといった負の感情を背景とした人間の「愚行」だった……

 貫井徳郎らしい、嫌悪感を催す人々の感情や行動を描いた秀作。ミステリとしての仕掛けもあるのだが、本書のテーマを前にしては単に「一技巧を凝らしたましたよ」ということにしか過ぎないように思えてくる。それだけ「人間の愚行」という主題を執拗に描いているのだ。技巧ということに関しては本書がインタビュー形式で書かれているという点に注目すべきである。当初は被害者の欠点や短所を言うことに関して遠慮がちである取材の受け手が、いつの間にか悪口とも言える内容のことを語りだしている。しかも、あくまで被害者を気の毒がっているかのように装いながら。この手の言動をもたらす人間心理もまた「愚行」と呼びうるものである。その点を鑑みると、インタビュー形式という手法をとること自体、テーマにテーマに絡めているといえる。