桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人

 川村七竈は、友人の唱える「母がいんらんだと娘は美しく生まれるものだ」という仮説ゆえか、たいへんな美少女だ。その七竈と親友の雪風、そして周囲の「可愛そうな大人たち」の物語。美少女に幼馴染の美少年とくれば二人の恋愛に主眼が向きがちだが、七竈の一風変わった語り口や鉄オタエピソードなどに象徴されるように、本書はその恋愛部分を徹底して黙殺する。代わりに描かれるのは少女の成長、及びその少女の周囲の大人だ。そしてタイトルから明らかであるが、美しく神秘的な少女に対し、大人はあくまでも「可愛そうな」存在として登場する。

 以下、本書『少女七竈と七人の可愛そうな大人』及び『荒野の恋』シリーズをネタバレ気味に。
 本書を鑑賞する上で、同じ作者の『荒野の恋』シリーズとの対比が有効であるように思える。両者は表裏の関係にあるからだ。

 実の母とのコミュニケーション喪失に悩む七竈と、義理の母ともうまくやっていけている荒野。そして戸籍上は他人だが、血縁的にはつながりのある七竈と雪風に対し、父の再婚により戸籍上は兄妹になった荒野と悠也。「恋愛」と「家庭」いう二つの要素が綺麗なまでに対照を成している。また、最終的に実らなかった七竈の「恋(のようなもの)」の結末に対し、まだ最終部は発表されていないが「恋」の結末に対して前向きな『荒野の恋』。両者の「恋愛」に対するベクトルは間逆である。

 『荒野の恋』が甘酸っぱく、恋の成就を目指している作品だが、この『少女七竈と七人の可愛そうな大人』は恋の喪失がテーマの一環をなしている。そしてそのテーマは少女から大人への成長から生じたものでもある。この一人の少女の成長を描いた、という部分が本書の読みどころだ。そしてその成長こそ、大人になることであり、大人になるということは本書でいうところの「可愛そうな」存在の仲間入りをすることでもあり、そうである以上、なんともほろ苦い作品でもある。