佐藤賢一『カエサルを撃て』

 2002年2月購入。4年半の放置。ローマの皇帝ユリウス・カエサルジュリアス・シーザー)を描いた歴史小説佐藤賢一の主人公は好漢がデフォであるが、本書の主人公カエサルは皇帝のイメージに程遠い冴えない禿男である。もちろん、政治的手腕に富んでおり、世渡りの巧さがあり、それゆえローマ帝国の将軍たりうるわけだが、佐藤的好漢たりえない。代わりに登場するのがもう一人の主役でカエサルのライバル、ウェルキンゲトリクスだ。こちらはカエサルよりも粗野だが若く美しく、残忍だが統率力にあふれる。カエサルウェルキンゲトリクス、対極にある両者の対決が物語の軸であるのだが、単純に「好漢」ウェルキンゲトリクスが活躍する話ではない。史実に基づき結局はカエサルが勝利するのだが、作者のキャラクターの性格付けを考えると、本書は若さ=勢いVS老い=衰えではなく、若さ=未熟さVS老い=老練さの物語であり、この構図での物語は展開する。その点を考慮すると、歴史活劇として魅力的なのはいうまでもなくウェルキンゲトリクスなのだが単純にキャラの魅力だけでは済ませない歴史の機微を語っているといえる。しかし、逆に若さに対する賛歌にもあふれており、その点ではキャラの魅力は十分に描かれている。二つの相反する要素を巧くまとめた佳品である。