北森鴻『支那そば館の謎 裏京都ミステリー』

支那そば館の謎―裏(マイナー)京都ミステリー

支那そば館の謎―裏(マイナー)京都ミステリー

 2003年7月購入。3年の放置。以前は凄腕の泥棒だったものの、足を洗って嵐山の寺・大悲閣千光寺の寺男となった有馬次郎。その次郎のもとに新聞記者・折原けいが数々の厄介な事件を持ち込む。次郎は折原のことを厄介に思いながらもその都度事件に首をつっこんでしまう。事件の解決の鍵は京都ならではの風習が握っている……

 北森作品といえば「バー・香菜里屋」のシリーズに見られるように料理描写を多く用いることが多い。本書でも居酒屋・十兵衛における場面で実に美味そうな酒肴を登場させている。それも、特別に豪華な料理ではなく、ありふれた素材を工夫を凝らして調理することによって。

 本書に収録された1篇1篇が、まさにその料理のごとく工夫を凝らして登場する。素材はずばり「京都」。例えば、「京都の銭湯では、浴槽が端に置かれる関東と違い中央にある」とか、名物料理の「鯖寿司」とか、京都ならではのネタを料理して味のある短編に仕上げている。その味わいは例えば「冬狐シリーズ」のようなボリュームたっぷりの豪華料理とはいかないまでも、タイトルにあるような「支那そば」のごとく手軽でも安心して食べられる趣がある。支那そば美味いよ支那そば。

 なお、途中で登場する「第六回大日本バカミス作家協会賞」受賞者にして『鼻の下伸ばして春ムンムン』の書き手水森堅に関しては、作者のほかの著書にもお付き合いしているものならば爆笑を以って迎えるべし。