道尾秀介『骸の爪』

骸の爪

骸の爪

 ホラー作家の道尾は親戚の結婚式で滋賀を訪れたついでに仏所・瑞祥房を取材することにした。ひょんなことからその瑞祥房に泊ることとなった道尾はその夜、笑う千手観音像と頭から血を流す仏像とを目撃する。これは霊現象なのか? 道尾は霊現象探求所を営む友人・真備とともに再度瑞祥房を訪れる。そこで待っていたのは仏師の失踪事件だった……

 デビュー作『背の眼』と同様の語り手・探偵役を使った真備シリーズの第二段。本格読みの間から絶賛の声が多数上がっていることからわかるように、前作がホラー色が強かったのに対し、本作ではホラーの要素を――特に解決面において――徹底的に排除し、純度の強い本格ミステリに仕上がっている。それゆえ前作のようなおどろおどろしさ、そしてこれはシリーズは異なるが『向日葵の咲かない夏』で見せ付けた破壊力は切り捨てられてしまっている。個人的にはそれが物足りない。しかし、本格作品としては申し分のない出来で、今後仮に作者が本格ミステリの書き手として筆を振るい、活躍していくことになるとするならば、本書は記念碑的作品となるに違いない。

 なお、ホラー色が強いかどうかで『背の眼』と『骸の爪』を区別することは容易いが、一方で「個人による事象の認識の違い」を扱っているという意味においてはこのシリーズは同じ地平線上にあるということができる。前作が幽霊の認識のある/なし(=ホラー的要素)を問題にしているのに対し、本書では話し言葉に対する個々人の認識を取り上げているという違いはあるのだが。