恩田陸『ライオンハート』

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

 2004年1月購入。およそ2年半の放置。男女のめぐり会いに生まれ変わりの要素を加えためぐり合いの物語。男は女を待ち望み、女は男を捜し求める。やがて二人は邂逅を果たすがすぐに別れてしまう。ところが二人は生まれ変わり、さらにお互いを求め合う……という終わりなきストーリー。
 基本的に恩田陸という作家は物語のクライマックスで魅せる作家ではなく、読者を作品全体の雰囲気、味わいに酔わせるタイプであり、そういう意味ではこういった生まれ変わりを繰り返す=明確なラストのない作品は短所を補い長所を際立たせる設定になっているといえる。実際、作中に登場する17世紀のロンドン、19世紀のシェルプール、あるいは20世紀パナマやフロリダというさまざまな舞台で繰り広げられるストーリーはふんいきたっぷりだ。日本の田舎っぽい風景でなく、西欧の多様な時代を描いている点にも注目したい。人気作家の作品にあって意外と埋もれ気味ではあるが、そう悪くはないと思う。