マーヴィン・ピーク『タイタス・アローン』

タイタス・アローン (創元推理文庫―ゴーメンガースト三部作)

タイタス・アローン (創元推理文庫―ゴーメンガースト三部作)

 前作でゴーメンガーストから旅立ったタイタス。しかし外の世界ではタイタスどころかゴーメンガーストの存在すら知られていなかった。自分のアイデンティティを形成する重要な部分であるゴーメンガーストを誰も知らない、ゆえにその当主たる自分自身すら誰も歯牙にもかけない。その事実がタイタスの矜持を傷つける。やがてタイタスは捨ててきた故郷ゴーメンガーストを渇望せずにはいられないこととなる……
 外部の人間にはまったく知られない異形の地、ゴーメンガーストは本作には登場しない。ただタイタスの記憶にのみ存在する。にもかかわらず圧倒的な存在感を読み手に抱かせる、作者の世界構築力及び筆力に感服。ただ、ストーリー的には前作には及ばない。しかし作者は本シリーズの続編を考えていたようで、いわば本作は「彷徨編」のプロローグに過ぎない。タイタスの旅路はまだまだ続き、今回初登場のキャラクターたちの見せ場も多く用意されていたことだろう。惜しむらくは作者の死によってその続編を読むことがかなわないということだ。