マーヴィン・ピーク『ゴーメンガースト』

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

 前作に引き続き、購入は前世紀と思われる。本書では若くしてゴーメンガースト城の当主となったタイタスとその城を乗っ取ろうとする成り上がりの野心家スティアパイクの対決が描かれるのだが、二人の対立は単なる権力者とその座を狙うものというものではない。
 確かにタイタスは彼の野心を知る前からスティアパイクに嫌悪感を示し、敵意をあらわにしていた。しかしそれは「ゴーメンガースト」という空間に対するお互いの志向の違いゆえに生じたものだ。タイタスはあらかじめ与えられたゴーメンガースト当主という地位を捨てて、どこか他の地へ逃げ出したいと考えている。逆にスティアパイクはタイタスの捨てようとしているゴーメンガーストでのし上がっていくことをのみ渇望する。この対立が生じたのは、は守る者と奪う者によってではなく、そこから逃げ出したい者とそこへ行き着きたい者による。
 根底から食い違う両者の激突は必然のもので、それゆえ凄絶だ。ラスト近くの水没していく城でのタイタスとスティアパイクの対決を描く場面、そのカタストロフィには息をのまずにはいられない。ダークファンタジーの傑作としてお勧めしたい。