石持浅海『月の扉』

月の扉 (カッパ・ノベルス)

月の扉 (カッパ・ノベルス)

 2003年8月購入。2年半の放置。那覇空港で発生したハイジャック事件。犯人の目的は不当に拘留された「師匠」を「開放する」のではなく空港まで「連れてくる」ことだった。綿密に計算されたハイジャック計画が進む中、思わぬ事件が起きる。機内のトイレで乗客の死体がが発見されたのだ。ハイジャック犯は乗客の一人に事件の解決を任せるのだが……

 MYSCONの作者インタビューによると、作者はストーリーを構築するに当たってまずは何らかのシチュエーションを作り上げるという。本作でいうと、ハイジャック中の機内で起きる殺人事件ということになる。作者の意図するところはいわゆるクローズドサークルを成立させて、本格ミステリ的な推理を繰り広げやすい舞台を整えることだ。そしてそれは成功しているのだが、ベクトルが本格方向を向いてしまったことにより、ハイジャックのサスペンスは微塵も感じられない。しかし、作者が志向したものを考えるとそれは当然のことである。これをもったいないと見る向きもあろうが、それを言い出すと作者の創作法の否定にもつながりかねない。