綾辻行人『びっくり館の殺人』

びっくり館の殺人 (ミステリーランド)

びっくり館の殺人 (ミステリーランド)

 館シリーズの新刊。小学6年生の未知也の住む近所には「びっくり館」と呼ばれる怪しい噂のある屋敷があった。そこの住人であるトシオ少年と知り合ってから「びっくり館」に出入りするようになるのだが、クリスマスの夜に舘の老主人が殺されるという事件が起きる。事件の舞台は密室……?

 怪しげな舘、いわくのある人形……ホラー色たっぷりの舘ミステリということでいかにも綾辻という趣のある作品となっている。いろいろ不評もあるようだが、綾辻作品としてはまずまずの水準ではないだろうか。ミステリと別次元で気になったのは一点。以下ネタバレ気味に。
 作品内における「殺人」の是非をめぐる解釈だ。主人公の兄はいじめを苦に自殺するのだが、その際に別の少年を巻き添えにする。それに対して父は「理由はどうあろうと他人の命を奪うことは重大な罪だ」というスタンスを貫く。一方、その解釈に納得しきれない主人公は「びっくり舘」の事件において殺人者をかばうような行動をとる。正当防衛が成り立つケースにせよ、「殺人」という重大な問題を是認するかのような結論に行き着く展開となっている。それ自体に道徳論を盾にとって非難するつもりはないが、「ミステリーランド」というレーベルでこういった取り扱いをするのはむしろ安直ではないかという気がしないでもない。「殺人の是認」とも取れる行動をとった主人公の心の内――悩みとか疑問とかそういったものがさほど伝わってこないのだ。単純にミステリとして表現すればよいものを、レーベルを意識して中途半端に道徳的なものを投入したのがアダになってしまったようだ。