藤岡真『白菊』

白菊 (創元推理文庫)

白菊 (創元推理文庫)

 相良蒼司はテレビでも話題の超能力者。しかし、実はその超能力はインチキなものだった。本職は画商でインチキ超能力を駆使した探偵業も営んでいる、そんな相良のもとに舞い込んだ依頼――謎の絵画『白菊』のオリジナルの探索。捜査を進める相良だが、依頼人は失踪し、さらには何者かに命を狙われるようになる……

 以下ネタバレ
 ラストの場面でのある登場人物の台詞がこの作品の手法を端的に表している。

影を描くんだ。上から下から前から後ろから横から、あらゆる方角から、影を描くんだ。そうしたら、本当の光を表現できる。

 本作における「影」とは相良の「インチキ」超能力で、作者はこれを終始あらゆる方角から描く。超能力否定の方向へ読者をミスリードするためだ。ところがそうして影を描くことによって最後の最後で「本当の」超能力を持ち出してくる。さらに言うならそれまで「光」の部分に位置した相良と終始「影」にいたままの真の超能力者のポジションが逆転することになる。「影」と「光」の鮮やかな転倒だ。
 そして材料として用いた超能力の使い方もこの作者らしいといえるが、そのトンデモぶりは『ゲッペルスの贈り物』『六色金神殺人事件』の作者にしては物足りない。本作はそれらの作品よりも一般受けしそうでそれはそれ喜ばしいことだが、この作者にはもっとはっちゃけたものを書いてもらいたいと思う。