石持浅海『扉は閉ざされたまま』
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2005/05/01
- メディア: 新書
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密室ものであるにもかかわらず、その密室の扉が開かれることがないまま物語が展開するという、一風変わった状況を扱った作品。作者はおそらくこの状況ありきで話を組み立てていったのだろう。本格ミステリにおいては通常探偵VS犯人という構図がとられるが両者の間には犯罪が介することとなる。事件が発覚して初めて探偵は犯人と対峙することとなる。しかし本作の場合は事件そのものが扉の向こう側に隠蔽されたままである。扉が開かれて初めて本来的な探偵VS犯人の図式が成立するわけで、本作の設定ではこの図式は成り立たない。通常の探偵側の視点ではそもそもの事件そのものをはっきりと認識できないあいまいな状態で物語が進めざるをえない。ここで作者が持ち出した手法が「倒叙」という形式だ。犯人側の視点を取ることによってあらかじめ読者に犯罪そのものを認識させる。探偵はあいまいなまま事件を追うこととなるが、読み手である我々は物語の肝である事件そのものがわかった状態で物語を読み進めることができるというわけだ。
開かれない密室という状況のまま物語を進めることにこだわったがゆえ苦肉の策だ。そしてそれは最善の策だといえる。だが、さすがにすべてを巧くまとめるのは苦しかったのだろうか。肝心の動機――なぜ扉を開かせないのかという部分が苦しい。いかにも状況ありきでとってつけたような動機だ。状況が魅力的であるだけに非常に惜しい。
しかし、それをもって本作を駄作あるいは失敗作だとするには忍びない。本格の世界においてはそれだけ魅力的な設定を作り上げているのだから。本作は密室ものの新たな地平を切り開いたとも言えるわけで、このような大いなる瑕疵もその上で生じたものなのだから。欠点をあげつらうよりも、それ以上に魅力的な長所を賛じたい作品だ。