ダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』

夜更けのエントロピー (奇想コレクション)

夜更けのエントロピー (奇想コレクション)

 シモンズ初読み。「黄泉の川が逆流する」「ベトナムランド優待券」「ドラキュラの子供たち」と冒頭3篇を読んで、ああ、この作家は主人公を逆境→好転→暗転という形で物語を展開する手法が得意なのかなと思ったが、さすがにそれほど単純ではなかった。
 ただし、全体に流れるトーンは暗めでそれは用いられる材料によるところが大きい。吸血鬼、エイズベトナム戦争といったものだ。これらはいずれもアメリカ的といえるもので、例えば吸血鬼はキリスト教的救済を否定するものであるし、エイズ問題は日本よりも深刻だ。そしてベトナム戦争アメリカ社会に及ぼした影は計り知れないものがあるだろう。そのへんの社会背景を共有しない日本人が果たしてどこまで本作の真髄を理解できるのかは疑問だ。単に幻想的な作品という評価でははかりきれない巨大なものがそこにはあるはずなのだが。