武田雅哉『桃源郷の機械学』

桃源郷の機械学 (学研M文庫)

桃源郷の機械学 (学研M文庫)

 2002年3月購入。4年近く放置していたことになる。『山海教』や『西遊記』や『三才図会』等といった中国で書かれてきたテキストをネタ元に、そこでうかがうことの出来る中国人の思想とか発想、想像力を分析した良書。
 「Ⅰさかしまの地理学」では精密な地図がない時代に作られた地図を紹介しており、黄河の源流や崑崙など、当時の中国人の想像した未踏の地のイメージを伺う知ることが出来る。西の崑崙と南の崑崙をめぐる謎を地図から読み解く話が興味深い。
 「Ⅱ人工宇宙の遊び人たち」では神仙思想をを絡めた「山」や「金魚鉢」のイメージから近代上海の楼閣までさまざまな空間を扱っている。
 「Ⅲ怪物たちの午後」は中国における怪物譚を広く紹介している。猪八戒に関する逸話がかなり多い。
 「Ⅳ桃源郷の機械学」は中華SF世界を取り上げていてもっとも面白く読めた。圧巻は神童江希張の著した『大千図説』に関するくだりだ。江希張は3、4歳で文章を綴り、5、6歳で経書に注釈を施し、そして10歳で『大千図説』を発表したという。明らかに胡散臭い同書の内容たるや、これまたいっそう胡散臭い宇宙論や、宇宙人、宇宙語のオンパレード。いわゆる西洋SFとはまったく異なる中華SFの世界がそこでは展開する。これを元ネタに中華風SF――あるいはファンタジー世界を作り上げることも出来そうだ。というか、私が知らないだけで誰か手をつけていたりして。映像文化が発達しすぎた現代では考えにくい、想像力を駆使した世界がそこにはある。